2022年7月号の【かながわ経済新聞】にイノウエ(相模原市緑区鳥屋)が紹介されました。
相模原産ヘアゴム、世界市場を席巻
イノウエ、海外の「高品質需要」追い風に
相模原産のヘアゴムが世界市場を席巻しようとしている。
イノウエ(相模原市緑区鳥屋)が製造販売するヘアゴムは、国内シェア8割以上を占める。旧津久井地域で盛んだった伝統産業「組みひも」だが、時代とともに業者の淘汰(とうた)が進み、残っている企業はわずか。同社が現在も成長しているのは、どこよりも早く「カラーヘアゴム」を開発するなど、脱下請けを図ったことが大きい。現在、海外10カ国に展開するが、輸出国の生活水準の向上により、ヘアゴムは、価格よりも高品質なものが好まれるという。そのため、国内生産を堅持。ヘアゴム1本でも、決して模倣できない品質ノウハウを凝縮させている。
早くに脱下請け
1928(昭和3)年創業。かつての津久井は「製紐(せいちゅう)」が盛んで、組合もあった。しかし、当時はどの企業も受託生産を主軸とし、小売業と直接取引はしていなかった。
こうした中、戦後の高度成長期になり、井上毅社長の先代に当たる井上旭会長が入社。「他社と同じ製品を作って、同じルートで売っていては将来行き詰まる」と危機感を持ったという。日本も豊かになりつつあり、女性もファッションに気を配るようになった。しかし、ヘアゴムは白と黒色しかない。「日本女性の美しい黒髪に合ったカラフルなヘアゴムを出せば、きっと喜ばれるのではないか」と考え、1975年に世の中で初めて、カラーヘアゴムを開発。以降、脱下請けを図った。
現在、月300万~400万本を生産。数百種類にわたるヘアゴムを販売する。コンビニエンスストア「ローソン」など、ほとんどの量販店に提供する。ただ、量産品ながらも「品質にこだわっています」(井上社長)と言う通り、1本でも7キロまでの重さに耐えられる。
品質支える「内職者」
同社のヘアゴムは、工場でまず素材をゴムひもにし、協力業者がカッティングする。そして仕上げ工程は約300人いる「内職者」が担っているのも特徴だ。
内職者たちは、工場でゴムひもを引き取り、各家庭に持ち帰る。そして接着剤を使って手作業でリング状にし、検品、包装、納品する。子育て中や療養中であっても、すき間時間で働けるとあって、応募者が絶えない。
実は同社のヘアゴムには、ノウハウが凝縮されているという。外部素材は化学繊維、内側の芯には天然ゴムを使っている。井上社長は「2種類の異なる素材を接合するための形状や、環境に左右されやすい天然ゴム製品の加工には、適切な工場管理が求められます。それらがノウハウです。海外製品と比べても、耐久性ははるかに優れています」と語る。
これからは海外
今後テコ入れするのは海外事業。北米や豪州、中国、ベトナムなどに輸出しており、売上高の海外比率も年々高まっている。
消耗品であるヘアゴムは、低価格が好まれると思いがちだが、「生活水準が上がっている国が増えており、消費者は価格よりも品質を選ぶ傾向にあります」(井上社長)と言う。8割以上のシェアを達成した国内市場の次は海外。海外市場に日本製ヘアゴムを根付かせようとしている。
(かながわ経済新聞2022年7月号10面掲載)